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ふるさと銀河線(高田郁)

「自分の夢に向かって進むべきか?それとも大好きな故郷で暮らすべきか?」
両親亡き後兄とふたりで暮らしてきた星子は、中学卒業後の進路で思い悩む。そして、彼女が出した結論は・・・。表題作「ふるさと銀河線」を含む9編を収録。

ふるさと銀河線は、JRの路線を引き継ぎ、北海道ちほく高原鉄道が運営していた北海道中川郡池田町から北見市に至る鉄道路線である。1989〜2006年までの営業だった。私は実際に何度かこのふるさと銀河線を利用したことがある。なので、タイトルを目にしたとき、迷わずこの本を手に取った。懐かしい列車、懐かしい駅名。運行していた頃の情景が鮮やかによみがえる。
このふるさと銀河線の沿線で暮らす人たち、そして息子の思い出を求めはるばるこの地を訪れた夫婦・・・。紡がれるのは、切なさの中にも温もりを感じる物語だ。ふるさと銀河線にまつわる話もよかったが、「お弁当ふたつ」も心に残った。突きつけられた厳しい現実!でも夫婦ふたりでならきっと乗り越えられるのではないか。そんな希望を感じることができる。
読んでいると、心が解きほぐされ優しい気持ちになってくる。味わいのあるほのぼのとした作品だった。



| 高田 郁 | 23:11 | comments(0) | ゆこりん |


たったそれだけ  (宮下奈都)

「逃げて。」不倫相手の女性社員のひと言で、収賄が発覚する前に失踪した望月正幸。いったい望月はどういう人間だったのか?また、彼の失踪後、家族はその事実とどう向き合ったのか・・・?さまざまな人間模様を鮮やかに描いた作品。

ひとりの男の失踪の陰には、彼に関わるさまざまな人たちのドラマがあった。望月の不倫相手の女性、彼の妻と娘、彼の姉、それぞれの人たちにまつわる物語・・・。やはり、彼の妻と娘の物語はとても切ない。妻はいつも失踪した夫を追い求めていた。転々と住むところを変え、必死に追い求めた。娘はその間転校を繰り返したが、母の気持ちを思いやり何も言わなかった。ふたりの気持ちが痛いほど伝わってくる。「この作品の中に登場する人たちは、誰もが不幸なのではないか。」ずっとそう思いながら読んだ。だが、後半、物語は意外な方向へと進んでいく・・・。
人生には逃げなければならないときもあるだろう。だが、逆に、逃げてはいけないときもある。現実を見据え、立ち向かわなければならないときもある。ラストは未来への希望につながる何かを感じさせるものだったので、救われた。深い味わいのある作品だった。



| ”み” その他 | 20:21 | comments(0) | ゆこりん |


花咲舞が黙ってない(池井戸潤)

「銀行の取引先の内部情報が漏れている!」
郊外型ファミレス・レッドデリの出店計画の先回りをするライバル会社。誰が何のためにその会社にレッドデリの情報を漏らすのか?そこには、ある者の屈折した思いが潜んでいた・・・。「たそがれ研修」を含む7話を収録。

今回も銀行を舞台に、さまざまな難問が舞に降りかかる。中には、舞や相馬の手には負えないものもある。だが、花咲舞は怯まない。あきらめない。正義を貫くため、銀行員としての誇りを失わないため、彼女は奔走する。相馬に降りかかる思わぬできごと、意外な人物の登場など、読み手をドキリとさせる展開もある。
どんなに正義を振りかざしても、巨大組織の中での舞の力は小さい。不正を暴ききれないもどかしさもある。けれど、舞の熱意が周りの人間の心を変えていく。最後に舞の努力が報われ、ホッとした。
今回も、楽しみながら読んだ。マンネリ化してきたかな?と思わないでもないが、まだまだこのシリーズを読みたいと切に願っている。



| 池井戸 潤 | 21:31 | comments(0) | ゆこりん |


あやかし草紙(宮部みゆき)

人の心のすき間にスッと入り込み、行き逢い神はその家に住みついた。開けずの間になった行き逢い神のいる部屋。だが、家族は次々と不幸に見舞われた・・・。「開けずの間」を含む5話を収録。三島屋変調百物語シリーズ5。

女が強く願ったこと。それは、人として母として当然のことだったのではないのか。けれど、行き逢い神はその女の家に住みついた。そして、その家の者たちの心を惑わし、狂わせていった。怖い!怖い!読んでいて背筋がぞっとする。他の話も怖かったが、5編の中でこの話が一番怖く、特に印象に残った。行き逢い神も怖いが、もっと怖いものが人の心の中にあった!
また、本の帯に「シリーズ第一期完結編」と書かれていてどういうことかと思ったが、意外な展開があった。おちかの決断に、これからの幸せを願わずにはいられない。
ともあれ、このシリーズはまだ続くらしい。これから先どういうストーリーになるのか?新たな三島屋変調百物語シリーズに期待したい。



| 宮部 みゆき | 20:08 | comments(0) | ゆこりん |


風神の手(道尾秀介)

さまざまな人たちの人生がからみ合いながら、過去から現在へとつながっていく・・・。いったい、彼らの運命はどこでどう変わっていったのか?微妙なつながりを持つ4編を収録。

余命いくばくもない母が娘に語る高校時代の若き漁師との思い出を描いた「心中花」、小学5年生の”まめ”と”でっかち”の友情と不思議な事件を描いた「口笛鳥」、命の期限が迫る老女が抱えている昔の罪を描いた「無情風」、そして、それら3つの話に登場する人たちがつながっていく「待宵草」。この作品はこれら4つの話で成り立っている。
「こんなふうにつながっていたのか!」
考え抜かれた緻密なストーリー構成に驚かされる。バラバラだったできごとをジグソーパズルのピースのようにはめ込んでいけば、最後には全く異なる物語が完成する。見事としか言いようがない。
人の運命は、ほんのささいなことで大きく変わってしまうことがある。変わらない方が良かったのか、変わった方が良かったのか、それは誰にも分からない。でも、ひとつ言えるのは、どんな人生にも希望の光が輝いているということだ。
この作品は、人生というものをあらためて考えさせてくれた。読後感もよく、読みごたえのある面白い作品だと思う。



| ”み” その他 | 23:15 | comments(0) | ゆこりん |


風は西から(村山由佳)

「ごめん。」
そのひと言を残し、彼は自ら命を絶った。
あこがれの大企業に就職し、希望に満ちた未来を見つめていたはずだったのに。いったい彼はなぜ死ななければならなかったのか?遺された者たちは、大企業と闘うことを決意した・・・。

将来は両親が営む居酒屋を継ぐはずだった。その日のために、大学の経営学科で学び、健介は、敬愛する山岡誠一郎が経営する「山背」に入社した。だが、それが悲劇の始まりだった・・・。
健介が就職したのは、ブラック企業だった。達成できるはずもないノルマを課せられ、彼は奔走する。「できないのは自分に能力がないせいだ。」そう思い込み、健介はしだいに自分を追い込んでいく。読んでいて胸が痛い。「山背」は、人を人として扱っていない。「社員がどうなろうと構わない。代わりはいくらでもいる。」そういうふうに考えるとんでもない企業だ。健介は、そんな企業につぶされた・・・。遺された家族、そして恋人の千秋が立ち上がる!
読みごたえがある、内容の濃い作品だった。健介が追い詰められていく描写は生々しく、リアリティがあった。けれど、健介の両親と千秋が「山背」に立ち向かっていく描写があっさりしすぎていて物足りなさを感じた。できれば、もっとじっくり描いてほしかった。それがちょっと残念だった。



| 村山 由佳 | 22:15 | comments(0) | ゆこりん |


魔力の胎動(東野圭吾)

「彼女はいったい何者なのか?」
自然現象を見事に言い当て、彼女は不調のスキージャンパーを復活させた。それを目の当たりにしたナユタは、不思議な力を持つ円華に興味を抱き始めるが・・・。「あの風に向かって翔べ」を含む5編を収録。「ラプラスの魔女」前日譚。

さまざまな自然現象を正確に把握できる能力を持つ円華。彼女は、身の回りで起こったできごとを鮮やかに解決していく。内容はそれなりに面白いと思う。けれど、愛想がなく生意気で、円華自身に魅力が感じられない。なので、共感できる部分があまりなかった。
また、1〜4章まではいいとして、5章の「魔女の胎動」を載せたことには疑問を感じる。5章は明らかに映画の宣伝ではないのか?この本が発行されたのも、映画の宣伝のためではないのかと勘繰りたくなる。(この本の初版発行は2018年3月23日 映画は2018年5月4日〜)純粋にひとつの作品として楽しめる形にしてほしかったと思う。期待が大きかった分、落胆も大きかった。



| 東野 圭吾 | 22:47 | comments(0) | ゆこりん |


カーテンコール!(加納朋子)

「閉校になるので、4月以降、萌木女学園は存在しません!」
けれど、単位取得に失敗し卒業できない学生がいた。彼女らは、学園理事長からの提案で、半年間の寮生活で卒業を目指すことになったのだが・・・。

外出もネットも面会もすべて禁止。そして見知らぬ者同士の集団生活。何もかもが戸惑うことばかりの寮生活だった。彼女たちは皆それぞれ、心や体に悩みを抱えていた。それぞれの抱える問題は、胸が痛くなるものばかりだ。だが、寮生活の中で彼女たちは変わっていく。心の中に何かが芽生え始めた・・・。
「誰かが自分のことを気にかけてくれる。」
そう思えるだけで救われる。自分の未来に希望が持てる。彼女たちは単に学園を卒業したのではない。過去の自分からも卒業したのだ。そして、前向きに生きようと新たな一歩を踏み出した!
心がほのぼのとする作品だった。読後もさわやか♪



| 加納 朋子 | 21:31 | comments(0) | ゆこりん |


テーラー伊三郎(川瀬七緒)

ダラダラと過ごす日々。17歳の男子高校生・海色(アクア)の日常は退屈なものだった。そんなある日、紳士服店のウィンドウに置かれたコルセットに、アクアは心を鷲掴みにされる。店主の伊三郎は頑固な老人だった。「なぜ彼がコルセットを?」そこには、伊三郎の思惑があった・・・。

紳士服仕立屋の伊三郎が突然コルセットを作った!家族の者は、伊三郎がどうかしてしまったのかとうろたえる。けれど、伊三郎には伊三郎なりの理由があった。
「さびれていく一方の田舎町の商店街を何とかしたい!」
だが、高齢者の多い街。理解を示してくれる者もいるが、頭の固い連中もたくさんいる。あの手この手で伊三郎のしていることを妨害しようとする。伊三郎、アクア、そして伊三郎を応援する者たちは、さまざまな妨害をひとつひとつクリアしていく。そしてついに・・・。
個性的・・・あまりにも個性的な登場人物が多すぎて面食らう。だが、彼らは何とかして街を再生しようとする。その方法がコルセットとは!読んでいて最後まで???だったが、それくらいインパクトがないと世間は注目してくれないのだと納得。「変える」勇気と努力。それがどういう結果を生み出すかを鮮やかに描いている。読後もさわやか♪



| 川瀬 七緒 | 23:32 | comments(0) | ゆこりん |


護られなかった者たちへ(中山七里)

仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が行方不明になり、その後身体の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。誰に聞いても、三雲は人から恨みを買う人間ではないと言われる。では、いったい誰がどんな動機で三雲をこんな残酷な方法で殺害したのか?そこには、現代社会が抱える深刻な問題があった・・・。

犯人は、三雲をひと思いに殺さなかった。じっくりと時間をかけ、苦しみながら死んでいく方法を取った。いったいどんな恨みがあるというのか?県警捜査一課の苫篠は蓮田とともに捜査を開始するが、有力な情報は得られなかった。そして、第二の殺人が起こる・・・。
この本を読み終えたときの衝撃は大きかった。生活保護・・・。護るべき者とそうでない者の線引きはいったい何を基準にして決めるのか?「生活保護を受けないと命にかかわる!」そんな切羽詰まった訴えも、冷たく拒否されることもある。お金がなく、ライフラインを止められ食料も尽きて亡くなった人は、実社会でもいる。だが、保護を求める人たちすべてを保護できないという福祉側の事情も分かる。一体どうすればいいのか。現代社会が抱える大きな問題だ。
人を殺すのは大罪だ。けれど殺害動機を知ったとき、犯人を純粋に憎むことができなかった。改めてもう一度問いたい。護るべき者とそうでない者の線引きはいったい何を基準にして決めるのか?明確な答えを見出すことができない限り、悲劇は無くならないと思う。
重いテーマを真正面から見据えた、読みごたえのある作品だった。オススメです!



| 中山 七里 | 21:09 | comments(2) | ゆこりん |